今日のアベコベ:硬そうなのにやわらかい?やわらかそうなのに硬い?
ヒトの思い込みというのは大変面白い。そしてその思い込みを利用して、つまりは心理学や行動心理学に基づいて行われるのがデザインという作業だったりする。演出もおなじで、ヒトはこう出したらこう思うだろうとか、こう動くだろうというのをある程度予測して要素を組み立てていくので、自然と人の行動というものに常日頃から興味がわくようになる。
一度物事の「みため」と「素材」をアベコベにしてみる実験をしてみたことがある。スワリの森でつくった「硬そうなのに柔らかいイス」である。
これは一見トゲトゲしており、硬くて冷たそうな印象の物体だけど実は座ると、柔らかい素材でできていることがわかるというアベコベイスである。人の錯覚と触覚のギャップを、体験によって埋めてもらうという試みで、実際若干用心しながら近づいてゆったりと腰を下ろす姿を多く見かけた。
このイスを作る過程で、じつは二通りのアイデアがでていたが、もう一つのアイデアが「ボツ」になったことは、私に新しい発見をくれた。
「錯覚と触覚がアベコベなイスををつくろう」として生まれたのが下の二つである。
①硬そうだけど柔らかいイス
②柔らかそうだけと硬いイス
さて、この2つのうち、②は即座にボツになった。理由はお分かりのことだと思う。
②のイスで人が最初に起こす行動は、①のイスとは大きく変わってくるからである。
ひとことでいえば、②のイスは人を見た目から安心させる作用をもっていて、
人は「やわらかそう」→「飛び込んでもうけとめてくれそう」「気持ちよさそう」という心理が働き
それをそのまま行動に起こす人がいるとすれば、彼または彼女が大怪我をすることは目に見えていたからだ。
逆にいうと、目的次第では②の方が採用されたケースもあるだろう。例えば防犯用に、いかにもやわらかそうなのにじつは固い塀があったら、犯人は突き指ぐらいはしてくれるかもしれない。
なんだか当たり前のことをとても大げさに書いているようだけど、同じ「錯覚と触覚」というふたつの関係性について考えた時に、その矢印の向きを変えるだけで、人の安否がここまで左右されるのだから、ものの見た目というのはなかなか侮れない。
そんな、アベコベなおはなし。
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